若年性認知症の方との関り(5)「壮絶な日々」

【壮絶な日々】

Aさんが住んでいる市には、当時としては珍しい認知症の専門医がいました。
その病院で若年性の痴呆症(当時)と診断され、なんでこの年齢で!と、妻は仰天したそうです。

しかしAさんの症状は猛スピードで進行していきます。
コミュニケーションは厳しくなり、行動も全てにおいて付き添いが必要でした。
そして世間は奇異な目でAさんを見ます。

一家の大黒柱が職を失い、妻が働きに出ます。
しかし、自宅にいるAさんは水を出しっぱなしにして、階下に迷惑を掛けます。(団地に住んでおられました)
そして、ふらっと出て行っては行方が分からなくなるのです。

壮絶な日々

筑波大学都市研究より引用(本文の団地ではありません)

 

このような状況では妻はおちおち働きにも出れません。
担当医は、当時としてはまだ数が多くないデイケアセンターにAさんが行けるよう手配してくれました。
ところがそのデイケアで便を壁に塗り付けてしまったため、まだまだ認知症の人への介護経験のないスタッフたちは、
Aさんのデイケアを断ってしまいます。

入院させたらという声もありましたが、とても入院費を払える状況でもなかったのです。

結局妻が取った行動は、あらゆる出口を全て外から鍵を掛け、電気水道ガスも全て元栓を閉めて、
要するにAさんを家に閉じ込めて仕事に出たのでした。

今ではそれを虐待と定義します。
しかし誰も助けてくれない状況では、そうするしか方法がなかったのです。

壮絶な日々

そしてさらにつらい思いをしたのが中学生の息子でした。

彼が最初に家に帰ってくるのですが、一歩家の中に入ると、
閉じ込められた混乱状況の中で暴れまわったAさんによって、家の中はぐちゃぐちゃになっています。
Aさんからすると誰も助けのない混乱と不安と恐怖の中に一日いることになります。

下半身裸になってAさんは、毎日のように壁に便を塗りつけていたのです。

その父の姿を横目で見ながら、壁に塗られた便をふき取るのが、中学生の息子の帰宅後の仕事だったのです。

(つづく)

センター長の石川でした